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多発性硬化症(MS)の誤診はどれほど多いのか 研究が示すこと
査読付き研究によると、多発性硬化症の診断を受けて専門クリニックに紹介された人のおよそ5人に1人は、実際にはこの病気ではありませんでした。MSの診断方法、MSと間違えられやすい病気、患者が医師に尋ねられることをまとめます。
要点
- 米国の大学医療機関による査読付き研究では、多発性硬化症(MS)の診断を受けて専門クリニックに紹介された人のおよそ5人に1人が、実際にはこの病気ではなかったとされています。
- シダーズ・サイナイ医療センターとUCLAへの紹介患者241人を調べた2019年の研究では、誤診率はそれぞれ17%と19%で、正しい診断として最も多かったのは片頭痛でした。
- 誤診の代償は大きく、同研究では誤診された患者の72%がMS治療薬を処方されており、不要な治療は合計で約110患者年に上りました。
- MSを確定できる単一の検査はありません。医師はマクドナルド診断基準を用い、症状、MRI、髄液検査、そして何よりもほかの病気の除外を組み合わせて判断します。
- 2025年9月にThe Lancet Neurologyに掲載された最新の改訂では、診断の特異性を高めて誤りを減らすことを目的としたMRIの指標が加えられました。
MSの誤診が話題になっている理由
CBS NewsとNBC Newsが2026年10月20〜21日に報じたところによると、MS患者の支援者として広く知られる俳優のクリスティーナ・アップルゲイトさんが今週、自身のポッドキャストで、MSは誤診だったと告げられたと話しました。アップルゲイトさんは2021年に初めてMSの診断を公表していました。この発言をきっかけに、「こうしたことはどのくらいの頻度で起きるのか」という素朴な疑問を検索する人が急増しています。
この解説記事では、特定の個人の病歴は扱いません。その代わりに、MSの誤診がどの程度多いのか、なぜ起きるのか、本来どのように診断されるべきか、そして患者が医師に何を尋ねるのが妥当かについて、研究が示していることを整理します。
多発性硬化症とは
MSは、免疫系が脳、脊髄、視神経の神経線維を覆う保護膜であるミエリン(髄鞘)を攻撃する慢性の病気です。損傷を受けた部分には瘢痕、つまり病変が残り、神経の信号伝達が妨げられることがあります。症状は人によって大きく異なり、しびれ、視覚の異常、疲労、筋力低下、バランスの問題、排尿の問題などがみられます。こうした症状の多くはMSに特有のものではなく、それがこの病気の特定を難しくしている理由の一つです。
国際MS連盟(MSIF)が主導する国際的な取り組み「Atlas of MS」によると、2020年の更新時点で世界では約280万人がMSとともに暮らしていました。米国のNational MS Society(全米MS協会)は当時、そのうち100万人近くが米国に住んでいると発表しています。MSは医師が念頭に置くほど一般的な病気である一方、症状が多くのほかの病気と重なるため、見逃しと誤った診断の両方が起きています。
MSの誤診はどのくらい多いのか
最もよく引用される数字は、シダーズ・サイナイ医療センターの神経内科医マルワ・カイシー氏が率いた研究によるもので、2019年に学術誌Multiple Sclerosis and Related Disordersに掲載されました。研究チームは、12か月の間にすでにMSの診断を受けた状態でシダーズ・サイナイとUCLAのMSクリニックを訪れた新規患者241人の記録を調べました。専門医は、シダーズ・サイナイに紹介された患者の17%、UCLAに紹介された患者の19%、全体ではおよそ18%がMSではないと結論づけました。
それ以前の多施設共同研究は、バーモント大学のアンドリュー・ソロモン氏が率い、2016年にNeurologyに掲載されたもので、異なる手法をとりました。米国の大学医療機関4施設のMS専門医が、MSと誤診されたと判断した患者110人を特定し、そのうち51人を「確実」、59人を「おそらく」と分類しました。この研究は誤診の頻度を測るためのものではありませんでしたが、その害を記録しています。これらの患者の約3分の1は、10年以上にわたって誤った診断を抱えていました。
クリーブランド・クリニックのメレンMSセンター所長ロバート・バーメル氏は今週CBS Newsに対し、この問題に関する最大規模の研究では、MSと診断された人の15〜20%が実際にはMSではないことが示唆されていると述べました。カイシー氏も同メディアに対し、誤診は「かなりよくある」と語っています。
ただし、重要な注意点があります。これらの研究は、珍しい症例や判断が難しい症例が集まりやすい大学の専門施設に紹介された患者を対象としています。2019年の研究の著者らは、記録を後ろ向きに調べた結果であるため、ロサンゼルス以外や大学以外の医療現場の実態を表していない可能性があると指摘しています。したがって、MSの診断全体における実際の誤診率は不明であり、一般の患者集団ではより低い可能性もあります。
| 項目 | Kaiseyら、2019年(シダーズ・サイナイとUCLA) | Solomonら、2016年(米国のMSセンター4施設) |
|---|---|---|
| 対象患者 | すでにMSの診断を受けていた紹介患者241人 | 誤診と判断された患者110人 |
| 誤診の割合 | 17%(シダーズ・サイナイ)、19%(UCLA) | 測定せず(症例集積研究) |
| 最も多かった正しい診断 | 片頭痛(16%) | 片頭痛(22%) |
| そのほかの主な診断 | radiologically isolated syndrome(9%)、脊椎症(7%)、神経障害(7%) | 線維筋痛症(15%)、MRI異常を伴う非特異的症状(12%)、機能性・心因性障害(11%)、視神経脊髄炎スペクトラム障害(6%) |
| MS治療薬の投与 | 誤診された患者の72% | 70%(77人) |
| 報告されたそのほかの害 | 不要な治療が約110患者年、推定費用は1,000万米ドル近く | 33%が10年以上誤診されたまま、31%に不要な健康被害 |
出典:シダーズ・サイナイのニュースルーム、およびKaiseyら(2019年)に関するAHRQ PSNetの要約、Solomonら(2016年)のPubMed抄録、RACGP newsGP。
なぜ誤診が起きるのか
研究者は、繰り返しみられるいくつかの問題を挙げています。1つ目はMRIへの過度な依存です。脳の画像に写る小さな白い点は白質高信号と呼ばれ、珍しいものではなく、片頭痛、高血圧、喫煙、加齢などさまざまな原因で生じます。あいまいな症状のある人でこうした点がMSの病変と読まれると、誤った診断につながることがあります。2016年の研究で専門医らは、非特異的な神経症状のある患者でMRIの異常に大きく依存することを主な要因の一つとして挙げました。
2つ目は診断ルールの誤った適用です。マクドナルド診断基準は、視神経炎や脊髄の炎症の発作など、MSに典型的な症状がすでにある人を対象に作られています。全身の疲労感や広範な痛みなど、典型的でない訴えのある人に当てはめると、誤りのリスクが高まります。2019年の研究では、誤診はMSとして非典型的な臨床症候群や画像所見と関連していました。
3つ目は決定的なバイオマーカーがないことです。一部の病気とは異なり、MSは1回の血液検査で確定することはできません。片頭痛や線維筋痛症など、MSと間違えられやすい病気の多くにも単一の診断検査がないため、慎重な臨床判断が欠かせません。
MSの診断方法:マクドナルド診断基準
医師はマクドナルド診断基準を用います。これは国際的に合意されたルールで、2001年に初めて発表され、その後何度か改訂されてきました。中心となる考え方は、中枢神経系の損傷が次の2つの意味で「広がっている」証拠を見つけることです。
- 空間的多発性:中枢神経系の複数の部位に病変があること。
- 時間的多発性:損傷が異なる時期に起きた証拠があること。新たな発作、経過観察のMRIでの新しい病変、髄液の特定の所見などで示されます。
同じくらい重要なのが、所見について「より適切な説明がない」ことというルールです。つまり、この基準はほかの病気を合理的に除外したうえで初めて使うべきものとされています。
一般的に用いられる手段には次のようなものがあります。
- 病歴の聴取と神経学的診察:脱髄疾患に典型的な症状や徴候を確認します。
- 脳と脊髄のMRI:活動性の炎症を示すため、造影剤を使うことも多くあります。
- 腰椎穿刺:髄液を採取し、中枢神経系での免疫活動を示すたんぱく質であるオリゴクローナルバンドを調べます。
- 誘発電位または光干渉断層計(OCT):視神経の状態を評価します。
- 血液検査:ビタミン欠乏症、感染症、ほかの自己免疫疾患など、MSに似た病気を除外します。
2024年の改訂で何が変わったか
「2024年改訂版」と呼ばれる最新の更新は、2024年のECTRIMS学術集会で発表され、ECTRIMSと米国のNational MS Societyが招集した国際委員会によって2025年9月にThe Lancet Neurologyに掲載されました。誤診を減らし、治療開始を早めることが目的として掲げられています。国際MS連盟とPractical Neurologyが報じた主な変更点は次のとおりです。
- 空間的多発性を示す5番目の解剖学的部位として、視神経が加えられました。
- 2つのMRI所見、中心静脈徴候と常磁性リム病変が補助的な証拠として使えるようになりました。中心静脈徴候とは病変の中心を通る細い静脈のことで、MSと間違えられやすい多くの病気よりもMSに典型的とされています。
- 髄液のκ遊離軽鎖インデックスを、オリゴクローナルバンドの代わりに使えるようになりました。
- ほかに補助的な証拠がある一部の症例では、時間的多発性が必須ではなくなりました。
- 50歳以上の人や、ほかの持病がある人について、具体的な指針が加えられました。これらの人では、MSとほかの原因による脳の変化を見分けるのがより難しいためです。
一部の専門家は、新しいMRI所見の検出には特定の撮像法が必要で、追加の時間がかかる場合もあるため、病院によって利用しやすさに差が出る可能性があると指摘しています。
MSと間違えられやすい病気
上記の研究とCBS Newsが引用した専門医のコメントによると、MSと最もよく間違えられる病気には次のようなものがあります。
- 片頭痛:神経症状を起こすことがあり、MRIで白質の小さな点がみられることと関連しています。
- 線維筋痛症やそのほかの慢性的な痛み・疲労の症候群。
- radiologically isolated syndrome(RIS):典型的な症状がない人で、MRIにMSに似た病変がみられる状態です。
- 脊椎疾患と末梢神経障害:しびれ、筋力低下、ピリピリ感を起こすことがあります。
- 機能性神経障害:症状は実際にあるものの、神経の構造的な損傷によるものではない状態です。
- 視神経脊髄炎スペクトラム障害:独自の血液検査と治療法を持つ、MSとは別の自己免疫疾患です。
- 高血圧、喫煙、加齢に関連する脳小血管病、甲状腺の病気や睡眠障害、リウマチ性疾患。
患者が尋ねられること
これは、MSと診断された人が自己判断で治療をやめるべきだという意味ではありません。診断が正しい場合、中止は危険になりえます。CBS Newsが引用した専門医は、症状が改善しない患者や疑問がある患者は、MS専門医によるセカンドオピニオンを検討するよう勧めています。役に立つ質問には次のようなものがあります。
- どの版のマクドナルド診断基準が使われ、私の所見はどのように基準を満たしていますか。
- 私の症状はMSに典型的なものでしたか。診察では神経の損傷を示す客観的な証拠が見つかりましたか。
- MRI画像は神経放射線科医やMS専門医が確認しましたか。脊髄も撮影しましたか。
- 髄液検査は行いましたか。結果はどうでしたか。
- ほかにどの病気を検討し、どのように除外しましたか。
- 中心静脈徴候のような新しいMRI所見で、私の診断をより明確にできますか。
National MS Societyは、患者がセカンドオピニオンを求める際に使えるMS診療センターと専門医の一覧を提供しています。
影響と意味
これまでの証拠からは、少なくとも専門施設を受診する患者の間では、MSの誤診は珍しくなく、その結果が深刻になりうることがうかがえます。何年にもわたる不要で、ときに危険を伴う投薬、高額な費用、そして本当の病気の治療の遅れです。一方で、これらの数字は大学医療機関での限られた数の研究によるもので、患者全体での誤診率は依然として不明です。
2024年のマクドナルド診断基準の改訂は、特に脳の病変の解釈において診断を厳密にしようとする医学界の取り組みを反映しています。日常の診療で誤診が実際に減るかどうかは、新しい画像技術がどこまで普及するか、そしてMS専門医以外の医師も含め、「より適切な説明がない」というルールがどれだけ一貫して適用されるかにかかっています。患者にとっての実践的な教訓は、MSの診断は複数の証拠の組み合わせに基づくものであり、それらの証拠がどのように整合しているのかを尋ねるのは当然のことだという点です。
よくある質問
多発性硬化症はどのくらいの頻度で誤診されていますか?
MSの診断を受けてシダーズ・サイナイ医療センターとUCLAに紹介された患者241人を対象とした2019年の研究では、それぞれ17%と19%がMSではありませんでした。専門医によると、最大規模の研究では15〜20%とされていますが、これらの数字は大学の紹介施設のもので、すべての患者を反映しているとは限りません。
MSと間違えられやすい病気には何がありますか?
最も多いのは片頭痛で、次いで線維筋痛症、radiologically isolated syndrome(RIS)、脊椎疾患、末梢神経障害、機能性神経障害、視神経脊髄炎スペクトラム障害などがあります。
MSを確定できる検査は一つだけありますか?
ありません。医師はマクドナルド診断基準を用い、症状、神経学的診察、脳と脊髄のMRI、場合によっては髄液検査を組み合わせ、ほかの原因を除外したうえで判断します。
2024年版マクドナルド診断基準では何が変わりましたか?
2025年9月にThe Lancet Neurologyに掲載された改訂では、視神経が5番目の部位として加わり、中心静脈徴候と常磁性リム病変がMRIの補助的な所見として認められ、オリゴクローナルバンドの代わりにκ遊離軽鎖インデックスを使えるようになりました。
診断に疑問がある場合、MSの治療をやめるべきですか?
専門医は自己判断で治療を中止しないよう勧めています。症状が改善しない場合や診断に疑問がある場合は、MS専門医にセカンドオピニオンを求めることが推奨されています。
出典
- CBS News: Up to 20% of MS diagnoses are wrong. Here's what doctors say patients should know(2026年10月21日)
- NBC News: Christina Applegate says she was misdiagnosed with multiple sclerosis
- Cedars-Sinai Newsroom: Study of multiple sclerosis patients shows 18 percent misdiagnosed(2019年)
- AHRQ PSNet: Incidence of multiple sclerosis misdiagnosis in referrals to two academic centers(Kaiseyら、Mult Scler Relat Disord、2019年)
- PubMed: The contemporary spectrum of multiple sclerosis misdiagnosis: a multicenter study(Solomonら、Neurology、2016年)
- RACGP newsGP: Study finds nearly one in five misdiagnosed as having MS
- Practical Neurology: 2024 McDonald criteria revisions published in The Lancet Neurology
- Multiple Sclerosis International Federation: Understanding the updated McDonald criteria for diagnosing MS
- ECTRIMS: Revisions to McDonald diagnostic criteria for multiple sclerosis published
- National MS Society: Updated Atlas of MS shows over 2.8 million people with MS worldwide